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すでに自転車で8kmほど移動しただろうか。軽い疲労感の中、塔の上を吹き抜けていく風がいかにも心地よい。
露店で水を買い、20分ほど休憩した後に再び自転車にまたがる。
我々は塔の上で新たな発見をしていた。
というのも、ここに来るときは上の図のように大きな湖の周りを迂回してやってきたのだが、次の目的地に向かうにはこの道を引き返さなくてはならない。
しかし、この迂回ルートは見た目以上に距離があり、車の通りも多い。
そこで、塔の上からあらためて見回してみると、塔のすぐふもとから車も通れないような細い道が伸びているではないか。
持っていた地図には何も描かれていなかったが、恐らくは道があまりにも小さいためであろう。
なんであれ、この道を通り抜けることができれば、相当なショートカットになる。
塔から見ていると牛を連れたおじいさんが歩いて行ったので、どこかにつながっている事は間違いない。
というわけで、ルートを新しく発見した小道に変更して、ペダルをこぎ出した。
道は舗装されていなかったが、石などは落ちていないためとても走りやすい。3分ほど走っていると、先ほどの牛とおじいさんを追い抜いた。
さらに3分ほど走っただろうか。そろそろ来た時の道と合流してもいいはずである。次の瞬間、先頭を走っていたGが突然止まった。
何事かと思い前を見ると、塔の上からでは遠くて見えなかったが、小屋のようなものが道の脇に建っている。おそらく庭師の人たちが使う管理小屋か、警備員の詰め所のようなものであろう。
そしてその先には木の柵が。
なんということだ。ここで行き止まりだったのである。柵の向こう側は低い草の草原になっており、その少し向こうには我々が通ってきた道が見えている。あと僅かな距離だというのに、引き返さなくてはならない。
ところが我々が悲嘆していると、小屋の中からラフな格好をしたタイ人中年男がでてきて、しきりに何かを伝えるような仕草をしている。
話を聞いてみると、どうやらその男は自転車を持って柵を乗り越えていい、と言っているようだ。
ちゃんと手入れされた庭を自転車で通り抜けるのも気が引けたが、男は「行け行け」と言っている。
よく見ると、この柵の向こうは他の場所に比べて手入れが荒く、草の丈も不揃いである。ここは本当にただの草原らしい。
胸をなでおろしたGが早速自転車を降りて柵を乗り越えだす。僕も後に続こうとした。
その時、背後から異様な気配を感じた。
獣のような息づかい。
信じられないほどの速さで近付いてくる地を蹴る音。
振り向いた瞬間に黒い影のようなものが脇をすり抜けてGに躍りかかっていた。
一瞬遅れて気づいたGは、抱えた自転車を投げ出すような勢いで柵を越えた。
直後、空気を引き裂くような甲高い鳴き声。
犬だ。どこから現れたのか真っ黒い犬がGに襲い掛かったのである。
背後を振り返ると薄笑いを浮かべる中年男の姿が。
いかん、はめられた。
しかし、怒声を上げる暇も無い。黒犬は次の目標をGの後ろを走っていた僕に切り替えたようだ。体を捻りこちらに駆け出してくる。
Gの様子を見る限り、犬は柵を乗り越えて襲ってくることは無いようだ。ペダルを踏み抜き一気に柵の下へ向かい、自転車を肩に担ぎ乗り越えた。
案の定、黒犬は追ってこない。
ひとしきりこちらに吼えたら、すぐに次のターゲットに向かった。
残る獲物は千明と最後尾を走っていたO野、O田原の二人乗りだけだ。
この場合、O野とO田原が列の後ろを走っていたのは幸運であろう。
二人乗りではどうしてもスピードが出ないし、柵を越えるときにもたついてしまう。
しかし、前にいる千明を黒犬が追っているスキに逃走すればよいのである。
千明がこちらに向かってくる。
黒犬も千明の自転車に向けて走りだ…さなかった。
何故か千明だけ直前でスルーされる。
この犬は現地民は襲わないようだ。
優雅かつ余裕で柵を乗り越えるアジアンプリンス千明。その後から必死の形相でO野とO田原も身を投げ出してきた。
なんとかかんとか全員が無事に逃れたようだ。
うれしそうな顔でこちらに手を振る中年男を全力で無視して、草原に自転車に向けてこぎ出す。
この時、もっと深く考えるべきであった…
中年男がこちらに熱いまなざしを向け続けたその理由を。
………
………
………
タイヤが沈む。
ズブズブ沈む。
中年男の計略はこの時をもって真の完遂となったのだ…
ここ草原じゃないよ。泥沼だよ。
はかったな孔明!!
このままもがいていると、本当にタイヤが埋まってしまう。
てゆーかペダルが地面に着きそうなんですが?
もう仕方ない。自転車から飛び降りて少しでも硬い地面を足で踏みしめて探す。
二人乗りしていたO野とO田原なんて本当に沈みかねない。既に後ろに座っていたO田原は飛び降りていた。
後ろを振り返ると中年男が腹を抱えて笑っていた。
もはや怒る気も起きない。
一刻も早くこの場を去りたかった。
ベトコンのゲリラに襲われたアメリカ兵ってこんな気分なのだろうか?
ようやく沼地を這い出した我々は憔悴しきっていた。
…それにしても途中で追い抜いた牛を連れたおじいさんは何処に。
まさか…戦友!?
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