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 案の定、我々はベロベロになっていた。正確に言えば「我々」ではなくO野と僕のビール愛好先鋒突撃型バカ2人だけなのだが。
 結局、出発の時間になってもビールを手放せず、2人だけ瓶ビールを抱えたままゲストハウスを後にすることになった。
 マチ子(仮名)ちゃんも午前中に引き続き我々とともに観光をするようだ。Gはとても嬉しそうだった。
 とは言ったものの、今日は別段どこか目的地があるわけではない。とりあえず、カオサンにある観光客向けの商店街をうろつくことにした。


 「うーわ!メッチャ似合っとる!」
 編み物屋の前で派手な原色で縫われたニットの帽子をかぶったGが薄気味の悪い笑顔を浮かべている。どうやらマチ子ちゃんにおだてられて帽子を購入したらしい。
 先程からマチ子ちゃんは「似合う似合う」と連呼しているが、彼女には悪いが正直に言うと全く似合っていない

 「え~マジで~?どーよお前ら?」
 Gが幸せ一杯な笑顔で尋ねてくる。残念なことに「似合っていない」とクールに言い放つことができるドライな性格の人間はここにはいない。O田原と千明が曖昧な表情で目を合わせながら「ウン、トテモヨクニアッテイルヨ」と形式的な返答をする。機械の様な発音が妙に印象的だ。


 「O野くん」
 「なんだい、伊藤くん」
 「キミ、いやに内股だね?」
 「そう言うキミこそ」

 ラブコメ担当班のやや後方。炎天下の中で目をマムシ化させた酔いどれ二人に限界が迫っていた。

 「O野くん。キミ、漏れそうだろ?なぜなら僕も漏れそうだから
 「うん。ビールを飲みすぎた僕たちの必然的帰結だね」

 どこか凄惨な決意を秘めたかのような笑顔をたたえながら酔っ払いバカは歩き続けていた。道には多くの店が所狭しを商品を並べていたが、その大半は露店である。便所なんてあるはずがない。
 また、この国のコンビニにはトイレを使わせるというサービスは存在しない。トイレは有るのだろうが店のはるか奥である。
 タイで確実に便所を使いたければ飲食店に入るしかないのである。
 そんな2人の前に突如して現れたバー。Gたちは遥か前方だ。迷っている時間も膀胱の余裕もなかった。


 慌てて飛び込んだバーの奥にあるトイレで用を済ませた僕たちは、遅ればせながら気付いていた。飲食店とは食事をする場所である。断じて排泄だけで終わらせていい場所ではない。
 すなわち何か注文しなくてはならない。

 「え…え~、びあぷりーず、いぇす、しんはーぷりーず

 こうして歴史は繰り返される

 僕とO野の2人だけが、常に右手にビール瓶を装着したままカオサンの道をバーからバーへ渡り歩く。買い物をしてる暇なんてない。買うものはビールとトイレの使用権利だけである。
 観光しながら飲み屋をハシゴすることになるとは思わなかった。これぞバカ旅行の極みかもしれない。
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