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そのまま一時間ほど、モズグズ様ごっこを楽しんでいるうちに、我々は二手に分かれていた。というより、分裂したと言った方が正しい。協調性にかけたぼくとO野が抜け出したのである。協調性の無い二人が固まるというのは、なんとも皮肉的である。
ぼくたちが二人乗りのリフトに座っていると、下のゲレンデにウンコ色の男(G)を見つけた。
Gはなにやらゲレンデの上のほうを見て、立ち止まっている。他のメンバーを待っているのだろうか?動かないと本当に雪の上に落ちた糞のようだ。
ぼくとO野はリフトの上から下界の汚物(G)に向かって、天皇皇后両陛下風に余裕の仕草で手を振ってやる。跪け、下民。
粉雪の舞い散る中、二分ほど厳かに手を振り続けていたら、ようやくGもこちらに気付いたらしい。ストックを振り回して応えてから、ゲレンデの上のほうを指し示した。
目を向けてみると、一見何の変哲も無いゲレンデだ。しかし妙な違和感を感じる。原因を確かめるべく、ゴーグルを外し目をこらす。原因はすぐにわかった。
通常では有り得ない場所の雪が乱れているのだ。何故かゲレンデの脇の林の中の雪が乱れている。
その様子を見るかぎり、誰かがコースを外れて林の中へ突っ込んだらしい。踏み込む者などいなかったまっさらな雪が無残にも掻きまわされていた。
だが、それだけではない。乱れた雪の端、木の下に何かがある。
雪に覆われた人の形をした何か。
見覚えのある色のスキーウェア………煎餅だ。
正直に言う。この時、一番初めに抱いた感情は「心配」でも「不安」でもない。
「歓喜」だ。
久しぶりに腹の底から笑った。リフトもゆっさゆっさと揺れた。
煎餅が雪玉になって転がり木にぶつかる光景が、目蓋の裏に鮮明に浮かぶ。隣のO野も腹を抱えて大笑いをしているから、たぶん同じ事を考えているのだろう。
ぼくたちは最初のリフト下り場でさっさと降り、一刻も早く煎餅を嘲笑うために、全速力で現場に向かった。今思えば、この時の滑りは世界に通用する速さであった。(と、思う)
煎餅が倒れていた場所に着いたとき現場は既にもぬけの殻で、ただ人型にくぼんだ雪だけが残っていた。
あわてて周りを見ると、下の方のゲレンデを煎餅らしき影がすべっている。どうやら無傷だったようだ。つまらん。
しかたないからO野と大急ぎでリフト乗り場に向かった。そこで待っていれば、必ず煎餅は来るはずである。その時に大笑いしてやろう。
リフト乗り場には、すでにGが立っていた。ずっとその場で待ち続けていたらしく、でかいウンコ色の体を寒さで震わせている。今のうちに、煎餅の身に何が起こったのか聞いておく。
真相はこうであった。
Gがゲレンデの左側に寄ったときである。Gのさらに左側を滑っていた煎餅が視界からフッと消えた。
慌てたGが急いで止まり、後ろを振り返ると、煎餅が陸にあがった魚のように跳ね回りながら雪の中をのた打ち回ってから、ようやく木にぶつかって倒れたらしい。
その幻想的な光景をGは鼻息を荒くして説明した。やはりコイツも欠片も心配しちゃいないらしい。
見上げると、残りの3人もだいぶ近くまで来ていた。
この距離なら顔も判別できる。煎餅を先頭にして、O田原、千明という順だ。なかなか順調に滑って…いや、煎餅が転んだ。忙しい男である。
煎餅は立ち上がろうと手足をバタつかせているが、うまくいかないようだ。うつ伏せに倒れているせいだろうか?
いまや煎餅はもがくことすら止めている。どうにも様子がおかしい。
やがてO田原も煎餅の異常に気付いたようだ。倒れ付している煎餅の隣に向かい、そして倒れた。エルボードロップが鋭い角度で煎餅に突き刺さる。
しかし、それでも煎餅は一瞬、ビクっと跳ねただけで、もう動かない。
にわかに風が吹き、空は荒れだしていた。
なんとか上体を起こしたO田原が煎餅に向かって何か話しかけている。
そして、ウェアのポケットに手を入れ携帯電話を取り出した。
同じタイミングでGの携帯も振動する。言うまでも無くO田原からだ。
「おう、どうした?」
『せんべ……が…たを……たって』
途端にGが発狂したかのように笑い出した。
雪崩でも起きないだろうか、Gは呼吸困難になりながらも笑い続ける。
「か、肩が……肩がぁ…」
Gがムスカ化しながら、何かを伝えようとしている。周りの視線が痛い。
「煎餅がッ…肩を…外した!」
今、因果の糸は結ばれた!
何?この完璧な予定調和。全ての事象がこの瞬間に収束している。今なら神も信じられる。
どれほどの時間がたっただろうか。無粋なエンジン音を響かせながら黄色のスノーモービルがやって来て、煎餅を連れ去っていった。
Gはなにやらゲレンデの上のほうを見て、立ち止まっている。他のメンバーを待っているのだろうか?動かないと本当に雪の上に落ちた糞のようだ。
ぼくとO野はリフトの上から下界の汚物(G)に向かって、天皇皇后両陛下風に余裕の仕草で手を振ってやる。跪け、下民。
粉雪の舞い散る中、二分ほど厳かに手を振り続けていたら、ようやくGもこちらに気付いたらしい。ストックを振り回して応えてから、ゲレンデの上のほうを指し示した。
目を向けてみると、一見何の変哲も無いゲレンデだ。しかし妙な違和感を感じる。原因を確かめるべく、ゴーグルを外し目をこらす。原因はすぐにわかった。
通常では有り得ない場所の雪が乱れているのだ。何故かゲレンデの脇の林の中の雪が乱れている。
その様子を見るかぎり、誰かがコースを外れて林の中へ突っ込んだらしい。踏み込む者などいなかったまっさらな雪が無残にも掻きまわされていた。
だが、それだけではない。乱れた雪の端、木の下に何かがある。
雪に覆われた人の形をした何か。
見覚えのある色のスキーウェア………煎餅だ。
正直に言う。この時、一番初めに抱いた感情は「心配」でも「不安」でもない。
「歓喜」だ。
久しぶりに腹の底から笑った。リフトもゆっさゆっさと揺れた。
煎餅が雪玉になって転がり木にぶつかる光景が、目蓋の裏に鮮明に浮かぶ。隣のO野も腹を抱えて大笑いをしているから、たぶん同じ事を考えているのだろう。
ぼくたちは最初のリフト下り場でさっさと降り、一刻も早く煎餅を嘲笑うために、全速力で現場に向かった。今思えば、この時の滑りは世界に通用する速さであった。(と、思う)
煎餅が倒れていた場所に着いたとき現場は既にもぬけの殻で、ただ人型にくぼんだ雪だけが残っていた。
あわてて周りを見ると、下の方のゲレンデを煎餅らしき影がすべっている。どうやら無傷だったようだ。つまらん。
しかたないからO野と大急ぎでリフト乗り場に向かった。そこで待っていれば、必ず煎餅は来るはずである。その時に大笑いしてやろう。
リフト乗り場には、すでにGが立っていた。ずっとその場で待ち続けていたらしく、でかいウンコ色の体を寒さで震わせている。今のうちに、煎餅の身に何が起こったのか聞いておく。
真相はこうであった。
Gがゲレンデの左側に寄ったときである。Gのさらに左側を滑っていた煎餅が視界からフッと消えた。
慌てたGが急いで止まり、後ろを振り返ると、煎餅が陸にあがった魚のように跳ね回りながら雪の中をのた打ち回ってから、ようやく木にぶつかって倒れたらしい。
その幻想的な光景をGは鼻息を荒くして説明した。やはりコイツも欠片も心配しちゃいないらしい。
見上げると、残りの3人もだいぶ近くまで来ていた。
この距離なら顔も判別できる。煎餅を先頭にして、O田原、千明という順だ。なかなか順調に滑って…いや、煎餅が転んだ。忙しい男である。
煎餅は立ち上がろうと手足をバタつかせているが、うまくいかないようだ。うつ伏せに倒れているせいだろうか?
いまや煎餅はもがくことすら止めている。どうにも様子がおかしい。
やがてO田原も煎餅の異常に気付いたようだ。倒れ付している煎餅の隣に向かい、そして倒れた。エルボードロップが鋭い角度で煎餅に突き刺さる。
しかし、それでも煎餅は一瞬、ビクっと跳ねただけで、もう動かない。
にわかに風が吹き、空は荒れだしていた。
なんとか上体を起こしたO田原が煎餅に向かって何か話しかけている。
そして、ウェアのポケットに手を入れ携帯電話を取り出した。
同じタイミングでGの携帯も振動する。言うまでも無くO田原からだ。
「おう、どうした?」
『せんべ……が…たを……たって』
途端にGが発狂したかのように笑い出した。
雪崩でも起きないだろうか、Gは呼吸困難になりながらも笑い続ける。
「か、肩が……肩がぁ…」
Gがムスカ化しながら、何かを伝えようとしている。周りの視線が痛い。
「煎餅がッ…肩を…外した!」
今、因果の糸は結ばれた!
何?この完璧な予定調和。全ての事象がこの瞬間に収束している。今なら神も信じられる。
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