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 我々の旅においては“順風満帆”という言葉に登場する余地はない。勿論それは今回も変わりはしない。
 最初のトラブルは国内、成田空港で発生した。バンコク行きの飛行機が雪のために出発が1時間遅れたのである。
 “1時間程度の遅延でなにを…”
 マトモな感覚を持った人ならこう考えるであろう。しかし、今回ばかりは事情が違う。

 だって、バンコクのホテルに到着する時間が午前1時半だから。もちろん予定通りにいった場合の話。
 すなわち予想される到着時間は日本時間で午前2時半ということだ。

「まあ、明日は昼ごろまで寝てればいいよな」
「とりあえず、しっかり寝ときたいもんな」
「それにこのくらいの時間ならいつも起きてるしね~」
 さっそくルートが妙な方向に曲がってきたことを全力で否定するように、機内で我々は軽口を叩き合いサービスのビールを酌み交わす。我々にとってこの程度の障害なんてハプニングにもならない、いつものことだ。
 「ありがとう、我々の翼を選んでくれことに感謝する」と機長も無駄にカッコいい機内放送を流すので、機長に乾杯してビールをもう一本いただいた。早くもみんな幸せ気分である。この遅れを深刻に考えていた者は一人もいなかったようだ。


 約5時間後、安定した着陸を決めて飛行機はバンコクに降り立った。ようやく入国である。
 機内から出た途端にムワッとした熱気に包み込まれる。「HAHA!暖房をきかせすぎだゼ!」と強がってみるも否定できないこの暑さ。懐かしい日本の熱帯夜のそれである。さっきまで銀世界にいたことなんて忘却の彼方だ。

 一方、先ほど摂取したアルコールは確実に眠気と疲労に置換されつつあった。我々はテンション低めにそそくさとホテルまで行くバスに乗り込んだ。
 バスは夜の道路をかなりのスピードで突き進んでいく。高架道路を走っているようだが料金所を通過した覚えはない。高速道路ではないようだ。それとも自動車専用道路のシステム自体が日本と異なるのだろうか。

 車内は一切の照明がともっておらず暗闇に包まれている。等間隔に続く街灯のみが定期的にそれぞれの表情を照らし出す。疲労の色は濃い。
 しかしGだけ様子がおかしい。顔に疲労とは異なる影が落ちている。
「実は…明日ツアーを申し込んであるんだ。もちろん無料の」
 突然Gが語りだした。

集合時間が朝の7時なんだ…

 街灯が全員の顔に暗い影を落とす。本当はGの顔に拳を落としたかったのだがそんな気力も残っていなかった。

 結局、ホテルの部屋に到着してみると既に午前3時を回っていた。泣く泣く目覚ましを6時30分にセットして深い深い眠りに落ちていった。
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