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目が覚めると一切の物音が消えた暗闇の中であった。幽かな光を頼りに窓辺に近付き、カーテンを開け放つ。
無色の光が瞳を焼いた。窓の外には一面に敷き詰められた雪の絨毯が広がっていた。
無色の光が瞳を焼いた。窓の外には一面に敷き詰められた雪の絨毯が広がっていた。
部屋の中を振り返る。
ひどく嫌なモノを見た。
この日は朝から快晴であった。布団の中で圧死しているO野は無視して朝食をとり、スキーの準備を始める。
例のタイツ状ウェアに触れてみた。微妙に伸びたのだろうか、昨日ほどの快感違和感は感じられない。もしかしたら、ぼくの脚が締め付けに慣れたのかもしれない。どちらにせよ、あまり喜べないのがもどかしい。
着替えが済んだので、宿の地下に向かった。この宿は地下に感想室があり、雪で濡れたスキー用具を乾かすことができる。ぼくたちも昨夜のうちに板や手袋を入れておいたのだ。
Gが大きな体をゆすりながら、板を引っぱり出している。その光景を見て、この部屋の中に三日ほどいれば、 Gもボクサーのような体型になれるかもしれない、と漠然と考えた。今夜にでも閉じ込めようかな。
必要な荷物を全て取り出したぼくたちは、板を担いでヨイショヨイショとスキー場に向かった。
午前10時頃にスキー場に着いたのだが、すでにかなりの人数が滑りだしている。ぼくたちもGに案内されて、昨日とは別のゲレンデに向かった。
昨日一日滑ったとはいえ、未だにみんな内股のヘロヘロスキーである。無難だが果てしなく格好が悪い。
そんな内股集団を後ろからインストラクター風の男が、華麗にパラレルをきめながら追い抜いていった。
「やっぱりパラレルができなきゃ格好悪いよな~」
O野がもらした言葉に全員が頷く。そうだ、スキーの醍醐味とは、あくまでもパラレルによる高速滑走である。
こうして今日の目標はパラレルのマスターということになった。やはりバカだけあって、実に単純である。
この日、滑ることに決めたゲレンデは、左右が林に囲まれていて、緩やかで長いコースになっていた。コブなども一切無く、周りで滑っている人たちも、ぼくたちのような内股スキーヤーばかりだ。
この初心者向けのゲレンデならば、安全にパラレルの練習ができるであろう。まずは見よう見まねで実践だ。
「ぐは!ふぶっ!ぶべら!!」
パラレルを強行しようとしたO野がさっそく雪に埋もれる。
板が吹き飛んでいたようにも見えたが、こちらも転ばないように必死だ。全力でO野の身を案じながらスルーする。
前の方を見ると、体重を活かしてグングンと加速していたGが脚を閉じようとしていた。
だが、次の瞬間には体勢を崩し、猛烈な雪煙の中に消えていった。Gなら転がったほうが速い気もするが、本人のために黙っておこう。
ぼくも曲がるために減速した時を狙って脚を閉じた。
結果、生まれて初めての側宙を体験。母さん、おれオリンピックに行くんだ。
もちろん着地なんてできるわけも無く、全身をしこたま打ち付けてしまった。
薄れゆく意識の中で、故郷に残してきた恋人のことが頭に浮かんだが、いつまでも倒れていると上から滑ってきた人にトドメを刺されそうだし、そもそも浮かんでくるものも無かったから、素早く起き上がる。
後ろの方を振り返ると、やはりO田原や煎餅、千明が同様に転げまわっている。もはやスキーというより、雪とじゃれあっている犬といった感じだ。パラレルマスターへの道は、長く険しいようである。
>つづく
ひどく嫌なモノを見た。
この日は朝から快晴であった。布団の中で圧死しているO野は無視して朝食をとり、スキーの準備を始める。
例のタイツ状ウェアに触れてみた。微妙に伸びたのだろうか、昨日ほどの
着替えが済んだので、宿の地下に向かった。この宿は地下に感想室があり、雪で濡れたスキー用具を乾かすことができる。ぼくたちも昨夜のうちに板や手袋を入れておいたのだ。
Gが大きな体をゆすりながら、板を引っぱり出している。その光景を見て、この部屋の中に三日ほどいれば、 Gもボクサーのような体型になれるかもしれない、と漠然と考えた。今夜にでも閉じ込めようかな。
必要な荷物を全て取り出したぼくたちは、板を担いでヨイショヨイショとスキー場に向かった。
午前10時頃にスキー場に着いたのだが、すでにかなりの人数が滑りだしている。ぼくたちもGに案内されて、昨日とは別のゲレンデに向かった。
昨日一日滑ったとはいえ、未だにみんな内股のヘロヘロスキーである。無難だが果てしなく格好が悪い。
そんな内股集団を後ろからインストラクター風の男が、華麗にパラレルをきめながら追い抜いていった。
「やっぱりパラレルができなきゃ格好悪いよな~」
O野がもらした言葉に全員が頷く。そうだ、スキーの醍醐味とは、あくまでもパラレルによる高速滑走である。
こうして今日の目標はパラレルのマスターということになった。やはりバカだけあって、実に単純である。
この日、滑ることに決めたゲレンデは、左右が林に囲まれていて、緩やかで長いコースになっていた。コブなども一切無く、周りで滑っている人たちも、ぼくたちのような内股スキーヤーばかりだ。
この初心者向けのゲレンデならば、安全にパラレルの練習ができるであろう。まずは見よう見まねで実践だ。
「ぐは!ふぶっ!ぶべら!!」
パラレルを強行しようとしたO野がさっそく雪に埋もれる。
板が吹き飛んでいたようにも見えたが、こちらも転ばないように必死だ。全力でO野の身を案じながらスルーする。
前の方を見ると、体重を活かしてグングンと加速していたGが脚を閉じようとしていた。
だが、次の瞬間には体勢を崩し、猛烈な雪煙の中に消えていった。Gなら転がったほうが速い気もするが、本人のために黙っておこう。
ぼくも曲がるために減速した時を狙って脚を閉じた。
結果、生まれて初めての側宙を体験。母さん、おれオリンピックに行くんだ。
もちろん着地なんてできるわけも無く、全身をしこたま打ち付けてしまった。
薄れゆく意識の中で、故郷に残してきた恋人のことが頭に浮かんだが、いつまでも倒れていると上から滑ってきた人にトドメを刺されそうだし、そもそも浮かんでくるものも無かったから、素早く起き上がる。
後ろの方を振り返ると、やはりO田原や煎餅、千明が同様に転げまわっている。もはやスキーというより、雪とじゃれあっている犬といった感じだ。パラレルマスターへの道は、長く険しいようである。
>つづく
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